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「アナバシス」★★☆☆☆

『アナバシス』は古代ギリシアの軍人・著述家であるクセノポンの著作。アナバシス(古代ギリシャ語 : Ἀνάβασις)とは、ギリシア語で「上り」という意味。クセノポンがペルシア王の子キュロスが雇ったギリシア傭兵に参加した時の顛末を記した書物である。
アナバシス - Wikipedia: フリー百科事典 (2015/08/30 14:22 JSTの最新版)

評価:★★☆☆☆


エウメネスがなかなか最終巻を読めなかった本。アナバシスはギリシア語で「上り」という意味の他に、川を上って行くということから「内陸部へ行く」という意味や「侵攻」という意味もある。なのでこのタイトルはペルシャへの侵攻に行ったというところから付けられたものだ。だがこのタイトルは全体の20%も当てはまらない。全7巻の内、アナバシスをしていたのは1巻だけであり、2~4巻はカタバシス(下り・撤退)であり、5~7巻はパラバシス(沿って行く)となっている。Wikipediaのあらすじはちゃんと全体を書いているけれども、説明の比率はだいぶ偏っている。

この本を読んでいてまず思ったのは「ギリシャ人、マジに迷惑」だった。これについてはWikipediaを編集した人も同じ気持だったようで、長い長い撤退時の内容をうまくまとめている。

手持ちの食料が乏しいため、各地の村々で焼き討ち、大掛かりな略奪、奴隷狩り、虐殺を繰り返し、メスピラにおいて住民の大半を虐殺。当然行く先々で敵視され、略奪の際の抵抗も強くなる。クセノポンをはじめとする傭兵軍団は、苦労を乗り越え無辜の民衆へ甚大な被害を与え続けた後、小アジア北西部のペルガモンに辿り着く(紀元前399年3月)。

これがあの「文化が違う」というやつなのか。相手が市場を開き、金で食料を調達できるなら購入していたが、相手が反抗的であった場合は容赦しない。1万人のギリシャ傭兵は神謡(バイアーン)をうたって略奪を開始する。前述の市場から購入するときの支払いは、この略奪で得たものからであることは言うまでもない。とはいえ敵方のペルシアも休戦協定として「ペルシア内を通過する際に、市場が開かれていない時は食糧と飲料を奪って良い」と言っているので、この時代としては当たりまえの事なのだろうが。

著者であり主人公でもあるクセノポンは、もともと大した地位ではなかったが、ペルシアの策略によって主な指揮官が処刑されてからはこの傭兵団のトップに立っている。何か問題が発生するたびに的確な指示を出し、兵士たちが反抗的になっても見事な演説で黙らせる。また客観性を付与するためか、クセノポン自身のことをガリア戦記のように*1三人称で書いているけれども、自画自賛すごいと言いたくなる。だとしてもアレだけの人数をまとめて撤退に見事成功したのだから、誇りに思って当然だろう。『馬術の書』で偉そうに指揮官の心得を書いていたのも納得だ。

アナバシス―敵中横断6000キロ (岩波文庫)

アナバシス―敵中横断6000キロ (岩波文庫)

*1:アナバシスのほうが400年ほど先なので、むしろカエサルが真似した可能性がある。